長年「我ながらアホなんじゃなかろうか」というぐらいの無駄な熱意と惰性で漫画一筋、いや二筋くらいに読み続けてきたおたくとしてはここらで自分が今評価しているものに対してなんらかの輪郭を設定したいわけでございます。これは漫画に限らず音楽やら文学やら電車やらのワンフー一味にとっては少なからずある欲求だと思いますがまあそんなことはどうでもよろしいのでとにかくやってみようと思います。ていうかもうやりましたので発表します。
BGMはiTunesの粋な選曲によりマーヴィン・芸の「What's Going On」。「暴力で俺を罰しないでくれ」という件が大学生のみそらでこんなことやってる俺の今の心境にぴったりだ。ぴったりだよ畜生。
少年部門
金熊殺し大将

有形無形に何度でも何度でも繰り返し執拗に提示される一言で表せば「困難に臨む時は友と力を合わせなさい」といういかにも少年漫画のキーワードっぽい主題。
 しかしそれは決して「少年漫画だから健全さをアピールせにゃならんだろう」という安直な理由からではないのだ。作者の藤田和日朗がどんな人物か実際には知らないし知る由も無いがカバー裏の端書等から推測するに恐らく作者自体がこの主題を実直に信奉しているのだ。
 故に物語はその根本の精神的方針において綻びを見せる事は無い。決してブレない方針を物語作者が持っていることで作品は恐ろしいまでの説得力を持つ。自分はその作品自体に溢れる強い強い説得力に深く深く憧憬するんです。そしてラスト5巻ぐらいの流れで大号泣です。横に人がいなければウォンウォン声出して泣きじゃくること請け合いです。
青年部門
金天狗大将
大日本天狗党絵詞 1 (アフタヌーンKC)

大日本天狗党絵詞 1 (アフタヌーンKC)

けなしどころが無い。考えられるとしたら筆で描いてるような絵と冗長性を排し且つ芝居っ気の多いセリフのせいでとっつきにくいということぐらいか?話としてはそりゃもうギリシャ時代から延々繰り返されてきた自分とは何ぞや?というものであるのですが台詞回しの秀逸さ、コマの流れへの配慮、話の盛り上げ方エトセトラエトセトラ全ての要素が完璧にガチッとはまってさあ大変。ブックオフで立ち読みでもいいから読んでください。

新人賞

アンダーカレント  アフタヌーンKCDX

アンダーカレント アフタヌーンKCDX

人間が自分が自分であるという認識を得るのは生まれて初めて鏡を見た時なんだそうです。鏡に映った自分を見て「ああそうかこれが俺か」という気になってそれまで不確かだった自分というものがちゃんと存在してるんだと言う事を信じるようになるんだそうです。しかしもちろん「鏡に映った自分」というのは「鏡に映った自分」であって「自分そのもの」ではない。
 ところが実は僕もあなたもこのとき抱いた「鏡に映った自分」=「自分自身」と言う錯覚を愚直に信じたまま今この瞬間ここにいるわけです。だって結局人間の目玉が顔面についてる限り己の全体像を直に視認することは不可能だからです。しかしどっかで「これが自分だ」という確信を得ないままに人生やっていくとなると自分自身の存在というのはいつまでたっても宙ぶらりん。自分の家のトイレに鍵掛けて立て籠ったって「ぼ、ぼくはほんとうにぼくなんだろうかぁ〜?」なんつっちゃって安心できない。だから心の平穏を得るために人間は皆錯覚しながら生きているんです。
 とどのつまりは気が狂ってるんです。人類皆キチガイ。というようなことをどっかのエライ学者さんが言ってたそうです。詳しくはご自分でお調べください。
 で、このように人間と言うのは自分で自分を理解する事が出来ない。今本当に今俺はこれをやりたくてやってんのかどうかというのは俺にもわからない。ということになってしまうとそれはすごくネガティヴな事に聞こえます。だって自分では良い人間のつもりでも実は本当の自分はものすごくイや〜なヤツかも知れん。
 そしてこの話の主人公もそれまで自分が信じてた有象無象が少しずつ綻びを見せていくのに従ってだんだんと不安定になっていきます。しかし、しかしですよお客さん。逆もまた然り。ネガがあるのはポジの為。太陽が無ければ影は出来ない。本当の自分は良いヤツじゃないかもしれないけど良いこともするかもしれない。それはどんなヤツがなんと言おうとどうしても消せない事実だと思うんです。
 悲しい話をリアリズムで推し進めていったらラストにちっちゃなちっちゃな光明が一筋。いいなぁ〜好きだなぁ〜こういうの。と思わず渡辺篤の真似で照れ隠しするぐらい素晴らしいと思います。それが作者が描こうとしたものかどうかはわからんですけども。ていうか「そりゃお前の深読みのしすぎだよ!」と突っ込まれたら「そうかもしれません」と言っちゃうかも知れません。いやでも一応根拠はあるんですよ。ネタバレになるから言いませんけども。あれ?もう既にネタはバレてんのか?どうなの?ええい面倒だそのままにしてしまえ。
 とにかく俺が言いたいのは「これオモロイから未読の方は買って読んだほうが良いですよ」というただそれだけのことなんですよ。にもかかわらずこんなクソ長々と説明してるのはこの漫画に関して「話自体はどーでもいいけど表現力がすごいから良い漫画」とかいうふざけたコメントを見つけたからなんですよ。俺がこの漫画で一番感動したのは話の構成の仕方なのに「話自体はどーでもいい」ってどういうことだコラ!ちゃんと読む気無いんならやめちまえ!ムカついたからリンク貼っときます。http://wakusei2.exblog.jp/i6←の青木とかいうヤツのコメントね。ていうかよく読むと全員ムカつくな。
 因みに作者はこれの前にアフタヌーンの新人賞を取ってこれがデビュー後第一作らしいんですよこれが。新人賞はこれとかラブロマとかも候補に挙がりましたがトータルで見たらやっぱこれが出色の出来かなと思われましたのでこれにしてみましたよこれが。

輝ける青春の喜びとイナズマ大将

おおきく振りかぶって (1)

おおきく振りかぶって (1)

友人に貸したら彼が的確に褒めた文章を書いてくれたのでhttp://d.hatena.ne.jp/rollingteacher/20060102を参照されるがよろし。
なんか青年部門っつーかアフタヌーン部門だな最早。
少女部門
あげられるものなんて賞くらいしかないから君に渡そうと思った大将
ハチミツとクローバー 1 (クイーンズコミックス)

ハチミツとクローバー 1 (クイーンズコミックス)

素人が流行の売れ線漫画を文章で評価するということはあまりしないほうがいいと言う意見には賛成です。今まで散々褒められてきたもんを専門家でもない輩が褒めなおしてもそこに新しい視座を提供することは最早困難であろうし最悪今までの焼き直しに終始してとどのつまりはつまらなくなるからです。
でもなんか実写映画化されるそうなのでちょっと言いたいことがあるんです。
作品の魅力っていうのは多分一つだけじゃないと思うんですよね。さっきも言った台詞回しの秀逸さだとかコマの流れとかあと絵がきれいだとかね。暴論かもしれませんがこの漫画の魅力の由来は作者がオタクだと言う事に基因しているものが多い気がするんですよね。別に寮の部屋をぶち破ったら宇宙戦艦ヤマトコクピットになってたとか急にユニコーンの群れが出てくるとかそういう細かい演出だけの話じゃなくてオタクってやっぱり細部にこだわるじゃないですか?で結果的に話の流れから絵の細かさからポエムの言葉の使いまわしまで見事なことになっとるわけです。
でそれがジャニーズ主演で映画化されるという段になったらね?やっぱりそういうオタク故の職人気質が失われてしまうんじゃなかろうか?という懸念が生まれるわけですよ。アニメは結構忠実に原作再現してたみたいだから別にいいんだけど(音楽の人選があざとすぎると思うけど)映画は止めた方がいいんじゃねえの?
というわけで漫画自体は面白いですよ。

他にも取り上げたい作品がいっぱい有って更新がめんどいので後からちょっとずつ書き足して行きますのでお楽しみに。何?楽しくない?
あとこの企画の大元になった話し合い(というか漫画を読んで「これいいよね」「うんいいよね」と言い合う会)はid:asamkhyaと一緒に行いました。