近況

大学三年のこの時期にもなるとサークルに入ってきた下級生の面倒をみさせられる羽目になる。今年一人目の入部者は顔は大仏そっくりでチリチリパーマのプチアフロというなかなかいいビジュアルを持ってはいたのだがこの世代特有のコミュニケーション不全症候群を患っておられる様子。
俺「やーいらっしゃいはじめましてー。何か聞きたいこととかあるかな?話してごらん?お兄さんに隅々まで話してごらんよダーッハッハッハ!」
彼「、、、、、サークルって、、、、金、かかる?」
俺「ん?あーまあそりゃあ多少はねえ。でもあれでしょ?バイトとかするでしょ?」
彼「、、、、、、バイト、、、、落ちる、、髪で」
彼がバイトに落ちた理由が髪形ではなくしゃべり方のせいだというのは一聴瞭然だったのでその旨を伝えたところ彼はやおら斜め三十五度上に首を傾けて一般人の目には虚空としか映らないその空間を上目遣いにしげしげと眺め回してからこう言った。
彼「、、、、、、、、、いや、、、、髪、、、、」
また俺の所属サークルは一応軽音部の部類に入るので音楽的素養はどうなのか聞いてみた。
楽器は一切できないがオリジナルは200曲以上あると頼もしいお返事。では早速アカペラで披露してくれと頼むと歌詞を記したノートが無いからできんとのつれないお返事。
その後彼の求めに応じて(彼が何を望んでいるのか理解するのに15分ほど費やした)パワーコードの押さえ方を伝授すると(でも二秒よそ見してから彼の方に向き直るといつも指がズレてオクターブ奏法になっている)彼はうれしそうに「、、、これで、、作曲、、、できる?」と聞いてきたので正直そんなこと知ったことか田舎に帰れ田舎に帰れ田舎に帰れこのクズの鑑みたいなプチアフロプチあふりらんぽ。と思ったのでなるたけ感情を殺す努力をしつつ「知らねえよ。お前次第だろ」と答えておいた。
そして俺は彼の面白い特質を発見するに至る。彼は「CD」という単語を発音するたびに「スィーディー」というのだ。最初は「つまらねえよこのクソヤロー」と思っていたのだがどうやら彼は舌が回らずに本当に他意無く「シ」を「スィ」としか発音できないようだった。
俺「君ちょっと源義経って言ってごらん?」
彼「ミナモトノヨスィトゥネ」
面白い。
俺「CD」
彼「スィーディー」
俺「勝手にシンドバッド
彼「勝手にスィンドバッド」
俺「源義経
彼「ミナモトノヨスィトゥネ」